患者の方へ

診療内容のご紹介

はじめに

当教室の診療部門は腎・高血圧内科と血液浄化センターに大別されます。前者では各種原発性腎疾患、高血圧、糖尿病や膠原病、血管炎に伴う腎病変、遺伝性腎疾患などの治療を担当し、後者では血液透析、腹膜透析、特殊血液浄化療法、シャント血管の手術や修復などを担当しており、腎関連疾患の診断、治療を総合的に行う体制が組まれています。埼玉県内最大の腎臓内科として、川越、ふじみ野、三芳、熊谷地域を中心に大宮西部、朝霞・志木・和光、上尾、北本、狭山・入間などの地域の医療施設への医師派遣を通じ、県内腎疾患医療への責任を担っています。以下に当科で診療を行っている代表的疾患についてご説明します。

遺伝性多発性嚢胞腎(ADPKD)


かつてこの病気は、ほとんどの人が腎不全になってしまう、遺伝性の病気だから治療法がない、と言われていました。しかし最近の研究の進歩により、腎不全になる患者さんは50%以下である事や、様々な治療、生活上の注意により病気の進行を抑えられることが分かってきました。さらに日本で開発された新薬(サムスカ)が2015年から使用できるようになり、この病気の診療は大きく変わってきています。当科では関連施設を併せ130名以上の患者さんを拝見しており、埼玉県内の約10%の患者さんの診療にあたっています。また長年新薬の臨床治験に関わり、県内最多、全国的にも上位のサムスカの使用経験(2021年1月現在で65例)も有しており、かつ全国平均を上回る治療実績を挙げています(有効率 76%, 2018年12月現在)。新薬の登場により、この薬剤のみが注目されていますが、全ての患者さんに新薬が必要なわけではなく、また新薬の効果を最大限に発揮するためには既存の治療や生活指導との組み合わせが必要であることも分かってきており、総合的な診療が重要です。当科ではこの疾患の専門外来を設置し、この疾患の診療経験が豊富な医師が診療にあたっています。

慢性腎炎、ネフローゼ症候群


IgA腎症などの原発性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群についても、県内最多規模の診療経験と実績を有しています。年間の腎生検実施数は150件程度と、東日本でも上位に位置する実施数です。日本人の慢性腎炎の原因として最も多いIgA腎症に対しては、扁桃腺摘出とステロイドパルス療法の併用療法を積極的に行っており、良好な治療成績(約85%)を挙げています。蛋白尿の程度や腎生検結果から総合的に判断し、必要性が高い患者さん、有効性が期待できる患者さんにお勧めしています。また重症度は比較的低くても近い将来に妊娠を希望されている場合などでも、患者さんとご相談の上お勧めする場合もあります。
また高齢者に多い膜性腎症に対しては、当科を中心に行った全国規模の臨床研究成果に基づき、治療効果と副作用低減のバランスを取った治療法を選択しています。各種のネフローゼ症候群に対しては、可能な限り入院期間を短縮し、外来診療や各地域の当科関連医療機関との連携を活用した診療方針を採用しています。
難治性、再発性のネフローゼ症候群に対しては生物製剤の使用も行っています。

糖尿病腎症

糖尿病の進行が軽微な段階から当科での診療を積極的に行い、腎機能の保持に重点を置いた診療を行っています。また最近開発された新規薬剤の腎臓への有効性を検証する研究も積極的に行っており、その成果を通常の診療に取り入れています。

糖尿病のじん臓合併症重症化予防への取り組み


厚生労働省、埼玉県では糖尿病患者さんの診療を進めるため、検診データを活用した大規模な診療支援の構築を進めています。糖尿病では、何より医療機関への受診を継続することが重要です。


糖尿病の腎臓合併症、糖尿病腎症では、病気がかなり進むまで腎機能(クレアチニンやeGFR)に異常が見られません。逆にこうした数値に異常が見られると、透析までの平均期間は2〜3年と言われています。また持続する蛋白尿は病気が進行した印であり、透析まで平均5〜6年と言われており、定期的に尿検査を行うことがとても大切です。埼玉県では県医師会、薬剤師会、栄養士会や県庁などが一体となった糖尿病腎症重症化予防プログラムを策定し、患者さんの継続的な医療機関受診と、一度は腎疾患専門医療機関へ紹介・受診して頂き、腎臓障害の進展防止に的を絞った治療を行って頂けるよう、かかりつけの先生と腎臓専門医との連携体制の構築を進めています。国、県、医師会一体となった取り組みの、県内唯一の腎臓内科幹事施設として、可能な限り病診並診の体制を取りながら、糖尿病腎症の重症化予防に取り組んでいます。

膠原病・血管炎に伴う腎障害、血液疾患に伴う腎障害

高齢化と共に近年増加しているANCA関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)の他、IgA血管炎、抗糸球体基底膜抗体関連腎症などの診療実績が、全国平均の4-5倍程度と多いことも当科の特徴です。これらの疾患に対してはステロイドホルモン薬、免疫抑制薬、特殊血液浄化療法、生物製剤などを組み合わせた集学的治療が必要となりますが、治療効果と共に有害事象・副作用を総合的に判断し、最良の治療方針をお勧めするように心がけています。
またSLEに伴うループス腎炎、サルコイドーシスなどについても豊富な治療経験をもとに、個々の患者さんに最も合った治療方針をお勧めしています。
多発性骨髄腫に伴う腎障害の治療経験も多く、原疾患を当科で診断するケースも多く見られます。血液内科との緊密な連携により腎障害、原疾患の両者に対して適切な治療方針をお勧めしています。
この他、希少疾患とされる単クローン性免疫グロブリン沈着症(重鎖沈着症やPGNMIDなど)、キャッスルマン病、TAFRO症候群などの診療数が多いことも大きな特徴で、多種多様な腎疾患の診断、治療に多くの実績を挙げています。

多尿、電解質異常

尿量が異常に多い、血液が薄くなる低ナトリウム血症、不整脈や筋肉異常を起こしやすい低カリウム血症などを扱う領域です。こうした分野の診療には腎尿細管という場所の機能を詳細に解析する必要があり、専門的な知識と経験が必要です。当科では電解質異常を専門分野とする診療部長をはじめ、経験豊富なスタッフが揃っており、県内外から多くの患者さんのご紹介を頂いています。
当科で診療している尿細管機能異常に伴う水電解質代謝異常症には以下の疾患があります。
バーター症候群
ギッテルマン症候群
SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)
腎性尿崩症
尿細管性アシドーシス
シェーグレン症候群
鉱質コルチコイド反応性低ナトリウム血症
中枢性塩類喪失症候群

治療抵抗性高血圧、二次性高血圧


治療抵抗性高血圧、あるいは難治性高血圧は、クラスの異なる3剤の降圧薬を用いても血圧が目標まで下がらないものと定義されます。当科は、日本高血圧学会の高血圧認定研修施設、ならびに日本腎臓学会の指定する腎臓専門医研修施設であり、治療抵抗性高血圧(難治性高血圧)や二次性高血圧に関する診療を数多く手がけています。原発性アルドステロン症などの二次性高血圧については、ホルモン(内分泌)異常を背景とする場合も多く、多くは腎機能異常が関与することから、当科には多くの患者さんのご紹介を頂き、手術療法を含めた総合的な診断と治療を行っています。

妊娠高血圧症候群 HDP


ユニチャームHPより

かつて妊娠中毒症と呼ばれたこの疾患は高血圧が病気の中心である事への理解が進み、「妊娠高血圧症候群 HDP」と名称が変更されています。世界的にも最大規模の、総合医療センターに付設された総合周産期母子医療センターは、国内のこの疾患の中心的な施設であり、当教室も本疾患をはじめ腎疾患患者さんの妊娠管理で腎臓内科側の中心的な役割を果たしてきました。腎臓病や腎障害を持つ方の妊娠例を含め、当科は豊富な診療経験を蓄積しており、元気な赤ちゃんを産んでいただくための診療を、産科と密接な連携を保ちながら進めています。より良い診療を行っていくための研究活動も積極的に進め、この疾患の専門外来も設置しています。

腎不全、血液浄化


血液透析を中心とした領域ですが、当科では維持透析は原則として行っておらず、腎不全患者さんへの透析導入、シャント作成、透析患者さんに合併症が生じた際の集中的な治療などを担当しています。状態が安定した患者さんへの透析(維持透析)は、当科からの医師派遣などにより緊密な連携体制をとっている各地域の維持透析施設を中心に、ご紹介をしています。腹膜透析については約60名の患者さんの診療にあたっており、県内で最も多い数となっています。腹膜透析の利点を生かした治療選択のほか、心機能が低下した患者さん、高齢の患者さんにも腹膜透析をお勧めしています。また腎不全患者さん特有のメンタル面の不調に対しても、心理療法士との連携により積極的にアプローチしています。
またクローン病、潰瘍性大腸炎に対する白血球除去療法や自己免疫性神経疾患に対する免疫吸着療法などを、消化器内科、神経内科などとの連携のもと、全国的に見ても上位に位置する診療実績を挙げています。

シャント、シャント血管内治療(PTA)


血液透析を行うためには1分間に200-250mlの血液を体外で循環させて濾過・透析をする必要があります。このような大量の血流量を確保するためのルートをバスキュラーアクセス(シャント、透析用カテーテルなど)といいますが、当科では積極的にバスキュラーアクセスの診療も行っています。
血液透析を始める準備として、前腕の動静脈を吻合する手術を行いシャントを作製します。シャント手術は病院によっては外科系の診療科が担当することも多いですが、当科では年間200件以上のシャント関連手術を行っています。またシャントは高流量によるストレスや頻回の穿刺により、狭窄や閉塞といったトラブルを起こすこともあります。シャント血管の狭窄や閉塞に対して、血管内カテーテル治療(経皮的血管拡張術:PTA)も行っています。PTAは狭窄したシャント血管にバルーンカテーテルを挿入し血管拡張を行いますが、血管を温存することができ、また基本的に外来で治療ができるため患者さんへの負担が少ない治療になります。当科では、当科と、当科の関連施設において年間約500件のPTAを行っています。
当院は地域のアクセス診療の中心を担うため週3回のアクセス外来を開設し、近隣のクリニックなどから多くの患者様を受け入れて診療にあたっています。

腎移植

腎移植は進行期腎不全に対する唯一の根治的療法です。腎移植患者さんの長期管理には慢性腎臓病の管理に加え、感染症や心血管合併症予防、糸球体腎炎再発や慢性拒絶反応等の移植腎障害の診断、治療などの内科的管理が重要です。そのため、欧米では腎臓内科医が移植医療に果たす役割は大きいですが、日本では腎臓内科医の移植医療への関与が少ないのが現状です。
総合医療センターはシッピングから慢性期管理まで、移植に関する全てを単一施設で実施しうる数少ない施設として、県内腎移植医療の中心的な役割を果たしています。当施設では、腎移植希望の患者さんの登録とメディカルチェックは内科が中心に、術前評価と手術及び周術期管理は外科が、術後急性期から移植後の慢性期管理は内科が、それぞれ担当し、腎・高血圧内科と肝胆膵・小児外科(移植担当診療科)の緊密な連携による集学的医療を実践しています。このように腎臓内科医が移植医療に積極的に関与していることも当教室の特徴で、慢性期管理のための移植外来も設置しています。