当科で扱う主な病気

治療抵抗性高血圧(難治性高血圧)と二次性高血圧

当科は、日本高血圧学会の高血圧認定研修施設、ならびに日本腎臓学会の指定する腎臓専門医研修施設であり、治療抵抗性高血圧(難治性高血圧)や二次性高血圧の受け入れを行っています。
治療抵抗性高血圧、あるいは難治性高血圧は、クラスの異なる3剤の降圧薬を用いても血圧が目標まで下がらないものと定義されます。治療抵抗性高血圧、あるいは難治性高血圧は、臓器障害を有する者や高リスク患者を多く含むため、適切な時期に高血圧専門医に紹介することが望ましいとされています。

1.腎実質性高血圧

二次性高血圧は、ある特定の原因による高血圧で、治療抵抗性高血圧(難治性高血圧)を呈することも多いことが知られます。二次性高血圧では、原因に対する治療により効果的に血圧がコントロールされたり、臓器障害の進行を抑えることができるために、適切な診断を行うことが極めて重要です。以下に主に当科で診療している二次性高血圧について,疑うポイントと専門医への紹介のタイミングを中心にご紹介いたします。
腎実質性疾患に基づく高血圧で、機序としてナトリウムの排泄障害による体液貯留(食塩感受性高血圧)、レニン・アンギオテンシン(RA)系の不適切な活性化、交感神経活性の亢進などが関与します。腎実質性高血圧は、高血圧全体からみても2~5%と高頻度です。高血圧に先行して検尿異常や腎機能障害が出現したり、妊娠早期から高血圧や蛋白尿/腎機能障害(加重型妊娠高血圧腎症)が存在したことを確認できれば、慢性腎臓病(CKD)に基づく高血圧である可能性が高いといえます。しかし、CKDの多くは高血圧を発症させる一方で、高血圧は腎障害を進展させるため、両者が合併している場合、どちらが原因でどちらが結果なのか判定できない場合も多々あります。
いずれにせよ、CKDと高血圧には密接な関係が存在し、末期腎不全に至る悪循環が形成されます。CKD、特に腎実質性疾患では、原疾患に対する早期治療により生命予後や腎予後が改善されるため、腎実質性疾患の存在が疑われた場合、あるいは「CKD診療ガイド2012」の腎臓専門医への紹介基準に該当する場合(尿蛋白が陽性、もしくはGFRが40歳未満では60mL/分/1.73m2未満、40~69歳では50mL/分/1.73m2未満、70歳以上では40mL/分/1.73m2未満)は、速やかに腎臓専門医へ紹介することが強く推奨されます。

2.腎血管性高血圧

腎動脈の狭窄、あるいは閉塞により発症する高血圧で、高血圧患者の約1%に認められる頻度の高い疾患です。腎動脈狭窄の原因としては、中・高年に多い粥状動脈硬化が最も多く、若年者に発症する線維筋異形成がこれに次ぎ、若年女性に多い高安動脈炎(大動脈炎症候群)や、その他,動脈瘤,塞栓症,動静脈奇形,解離性大動脈瘤も稀ですが認められます。
粥状動脈硬化では全身の動脈硬化が進行しており、50%以上の腎動脈狭窄は冠動脈造影を施行した患者の10%、これに高血圧を伴っていた場合18%、また末梢動脈疾患で25%、腹部大動脈瘤患者の33%、頸動脈高度狭窄患者の27%に認められることから、これらの疾患では特に本症の存在を疑うべきです。また、4年間の経過観察で腎動脈狭窄合併群は非合併群に比して生存率が有意に低く(57% vs 89%,P<0.001)、狭窄の重症度に応じて死亡率上昇が認められており、動脈硬化性疾患の独立した予後規定因子としての腎動脈狭窄の重要性が示されています。
その他では、突然の説明のつかないうっ血性心不全や肺水腫、説明のつかない進行性の腎機能障害(特にRA系抑制薬開始後の腎機能の増悪)、説明のつかない腎萎縮、または腎サイズの左右差(1.5cm以上)、腹部の血管雑音が認められた場合には腎動脈狭窄の可能性を念頭におく必要があります。説明のつかない再発性のうっ血性心不全・急性肺水腫、あるいは不安定狭心症の病態は、レニン・アンジオテンシン系の賦活化による末梢動脈収縮(後負荷増大)、心筋酸素需要の増大、容量負荷などの機序で循環動態の恒常性が破綻して発症するとされ、特に腎動脈狭窄に起因するうっ血性心不全・急性肺水腫には血行再建術が有効とされています。
腎動脈狭窄が疑われた際の検査では、非侵襲的診断検査として従来行われてきた血漿レニン活性(plasma renin activity;PRA)やcaptopri1負荷腎シンチグラム検査よりも、近年では腎動脈エコーやMR血管造影(MRA)、CT血管造影(CTA)などの画像検査の方が精度が高いことから推奨されており、当院でも積極的に行っています。
また、当科では、「腎血管カテーテル治療研究会」などの開催を通して、腎血管性高血圧の研究や啓蒙活動と、積極的なスクリーニング、および治療を推奨しています。

3.原発性アルドステロン症

主として副腎皮質球状層の過形成あるいは腺腫から過剰に分泌されたアルドステロンにより、体液量が増加して食塩感受性高血圧が発症します。エスケープ現象のため通常浮腫はありません。
近年、高血圧における本症の頻度は約5%(1.6~11.2%)、合併症のある高血圧では約20%と高頻度に見られることがわかっており注目されています。特徴的な臨床所見はありませんが、心肥大や、脳卒中など臓器障害が起こりやすいことが知られています。本症では低カリウム血症が特徴とされていましたが、近年正常カリウム例が多いことがわかり、特に患者が塩分制限をしている場合には低カリウム血症の程度は軽度であることが知られています。また、利尿薬で低カリウム血症が誘発される場合は本症を考慮します。
本症のスクリーニングでは、アルドステロン分泌の亢進とレニン分泌の抑制を証明します。血漿アルドステロン濃度(PAC)と血漿レニン活性(PRA)の比,ARR(aldosterone renin ratio)が200以上、かつPACが120pg/mLなら本症を強く疑い、ご紹介頂きますようお願い申し上げます。測定値は採血条件に影響されるため、まずは15~30分の座位安静後に測定し、降圧薬は未治療時あるいは少なくとも2週間(アルドステロン拮抗薬では2か月以上)休薬後に測定するか、困難な場合には影響の少ないCa拮抗薬,α遮断薬,ヒドララジンに変更後に測定するのが原則です。
画像診断で、典型例ではCTで造影効果のない低吸収性の腫瘍として描出されますが、線腫のサイズは0.5cm以下のことも少なくなく、微小線腫が存在する側の反対側の副腎に明らかな偶発腫瘍を伴うことや両側副腎過形成に結節状の腫瘍を伴うこともあるため、部位診断には副腎静脈サンプリングが必須となります。当科では放射線科や泌尿器科と連携し、積極的に副腎静脈サンプリングによる診断と腹腔鏡下副腎摘出術を行っています。

4.クッシング症候群

副腎皮質束状層からのコルチゾールの過剰分泌により、満月様顔貌,赤ら顔,挫瘡,中心性肥満,四肢筋萎縮,野牛様脂肪沈着(バッファローハンプ),赤色皮膚線条,皮膚の菲薄化,多毛などの身体的特徴を呈するため、診断は比較的容易です。副腎サブクリニカルクッシング症候群では特徴的な身体所見を呈しませんが、副腎偶発腫瘍を認めた場合や、高血圧のほか、月経異常,耐糖能異常,骨組懸症,筋力低下,抑うつなどの症状を認めた場合には、本疾患を疑いご紹介頂きますようお願いいたします。男女比は1:3~4 で、好発年齢は20 から40 歳台です。
クッシング症候群の高血圧の特徴としては、日内リズムの異常がみられ、夜間血圧が下降しなかったり(non-dipper)、逆に上昇する(riser)などの異常がみられます。また、早朝高血圧も見られ、家庭血圧を参考にして日内リズムの異常を調べます。
本症の診断にはコルチゾールの自発的な過剰産生が存在することを証明する必要があり、入院の上、血中ACTHおよびコルチゾール濃度,尿中遊離コルチゾール,尿中17-OHCSなどの測定,コルチゾールの日内変動の消失の証明,デキサメサゾン負荷試験,その他,画像による部位診断などを行い、治療方針を決定します.

5.褐色細胞腫

副腎髄質、交感神経節などに存在するクロム親和性細胞より発生するカテコールアミン産生腫瘍で、高血圧患者の0.1 から0.2%を占めます。好発年齢は20 から40 歳台で、副腎外発生、両側性、悪性、家族性をそれぞれ約10% に認められることから10% diseaseと呼ばれます。
褐色細胞腫は、高血圧のほかにも多彩な症状を示し、高血糖,代謝亢進,頭痛,発汗過多などの他に、悪心,嘔吐,腹痛や便秘などの消化器症状も高頻度(10 から40%)にみられます。
高血圧の特徴は、発作性(動揺性)ないし持続性で、圧利尿による体液量の減少や交感神経系の調節不全などによりしばしば起立性低血圧を伴います。また、体位変換,喫煙,運動,腹部触診などにより発作が誘発されることがあります。
高血圧緊急症では特に本症の可能性を念頭におくべきです。
検査では、まず腹部エコーと尿中VMA(vanillylmandelic acid)の定性反応試験を行い、腹部エコーでは約9 割の褐色細胞腫では腹部に腫瘤が認められます。血中濃度は変動が多いため正常上限の2 倍程度までは診断的意義に乏しく、また、レギチーン試験やグルカゴン負荷試験は危険性が高いため現在では一般に行われません。画像診断では、超音波,CTやMRIの他、当院では、MIBG(meta-iodobenzyl guanidine)シンチグラフィによる局在診断も可能です。
注意すべき薬物では、β遮断薬を単独投与すると、β受容体に結合しないカテコールアミンがα受容体を刺激するため血圧が上昇する可能性があります。また、本症では悪心や嘔吐などの腹部症状をしばしば認めますが、メトクロプラミド(プリンペランⓇ)を安易に使用すると、カテコールアミンの遊出が刺激されてクリーゼが誘発されることがあるので注意が必要です。

[医学生・研修医の先生へ]
当科は、高血圧と腎臓病という、2つのcommon diseaseを専門とする数少ない診療科です。前述したように、当科は、日本高血圧学会の高血圧認定研修施設、ならびに日本腎臓学会の指定する腎臓専門医研修施設ですが、将来専門医を取得するには多くの症例、患者さんを経験しなければなりません。当科は、多くの症例を受け入れており、これらの疾患を学ぶには最適の場といえるでしょう。